雲一つない晴天の中、園児たちのお遊戯の歌声が聞こえる。
歌声は揃っているわけではなく、園児の合唱によくみられる少しはみ出た声も聞こえてきて
それは個性として認められ、歌の中に溶け込む。
ちっ、めんどくせー。
園児の中にはお遊戯を歌うのが嫌な子もいる。
ガスは面倒くさがってお遊戯を歌わなかった。
そして、お歌の時間は終わり、自由時間になった。
園児たちはお絵かきや砂遊び、おままごとをしている。
しかし、ある男の子3人は部屋の隅で喋っていた。
いや、喋っているという動詞にするのも勿体無い。
駄弁っているという感じだ。
はー、きょうもだりい。
まちがいないね!
はやくひるねしたいな〜
おまえ、ようちえんにひるねのじかんないぞ
ガス、デンキー、スイドの3人は気だるそうに駄弁っていた。
ふと、ガスがデンキーに話し始める。
なぁ、ビスケットのうたってあるだろ?
ビスケットのうた?
ポケットのなかにはビスケットがひとつ〜♪
ってうたあるだろ?
ああ、ふしぎなポケットっていううただな。
そうそう。あれさ、ポケットをたたくとビスケットがふえるじゃんか。
あれってべつにまほうじゃなくてさ、たたきわってるんじゃね?
ああ、そういえばさいきん、せんせいがさ
ふしぎなポケットをうたってるときに、
あかいエプロンのポケットたたきわってた
きがする。
あれさ、ポケットのなか、
ビスケットのかけらだらけになってるよ。きたねー。
たしかに、きたないな。
あー、まじかー。もし、むじんとうにのこされたら
せんせいのもってるまほうのポケットほしかったんだけどなー。
そうか?
おまえ、あのエプロンのポケット、ビスケットしかでてこないんだぞ?
ほかのたべものほしくなるだろ?
たしかに……。
あと、おれさ、ビスケットじゃなくてクッキーのほうがすきだから
クッキーだしてほしい。
おれはハンバーガーがたべたいなー。
……。
……。
そんなことを言っていると、教室に戻る合図のチャイムがなり、先生が教室に入ってきた。
しかも、あの歌をやるときの赤いエプロンをしている。
みんなー、先生の所に集まってー。
先生は、教室にいるみんなに声をかけて、外で遊んでいる子たちにも教室の扉をスライドして戻るよう声をかける。
ひとしきり、戻るように声をかけた後、先生はいろいろ準備をし始めた。
ガスはその時に先生に声をかけた。
せんせーい。
あら、ガス
どうしたの?
そのエプロンさ、ビスケットやるんだろ?
おれ、きょうクッキーがたべたいからさ、クッキーだしてー。
ごめんねー。この魔法のポケットはね、ビスケットしか出てこないのよー。
えー、ビスケットしかでないならまほうじゃねぇじゃーん。
いつもみたいにたたきわってだしてよー。
そうだそうだ!
デンキ―もガスの意見に賛同した。
そうねー。残念だけど、他の食べ物を出してほしいならドラえもんにお願いしてねー。
ちょっと先生忘れ物したから、みんな待ってて―。
先生は、忘れ物を取りに行くといい、赤いエプロンを着たまま教室から出て行った。
ちっ、ドラえもんはいねぇっての。
そして、先生は忘れ物を取りに戻ったようで、といっても本当に忘れ物を取りに来たのかどうかは定かではないが、戻ってきた。
本当は歌の時間をやるつもりだったのだろう。しかし、先生は絵本を持ってきて
みんなー。今から本を読むねー。
といって、本の読み聞かせを始めた。
ちぇっ、やめやがったな……。
子どもはいろいろ考えていて、大人には考えもつかないことを言うが、そのときにどう動いていくのか考えさせられる先生であった。
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