ワンルームの窓から光が差し込む。
その光は僕の顔にめがけて、直線となりあててくる。
「うーん」
この日は、休みだが、起きる時間が遅くなっては次の仕事の日に上手く起きれなくなってしまう。
なので、できるだけ休日でも仕事の日と同じ時間に起きるようにしている。
しかし、人間の性なのか堕落したくなってしまう。起き上がるのが面倒くさいと思ってしまう。
今のところ、具体的な解決案は見つかっておらず根性で起き上がるしかない。
この日も、何とか根性で起きようとしていた。
体を起こし、ボーっとした状態で足元に目をやった。そこには何か小さい黒い物体がコソコソと動いている。
形は丸っこいようで、その丸を中心に細い線が何本も出ている……。虫……。えっ……。
クモだ!!!
「うぉっ!」
僕は驚いて、足をクモから遠ざけた。
それから、クモをしばらく観察した。
彼は、モゾモゾしている。どこに向かおうとしているのか分からないがベッドの真ん中に少しながら向かおうとしている。
僕はこいつをどうしようかと考える。
叩き潰すか。いや、彼も生き物だからここで死なせては可哀想か……。
逃がすか……。ティッシュで丁寧に包んで、窓の外に逃がすか。
この判断のおかげで僕はシャキッとなれた。
ベッドから降りて、テーブルにあるティッシュを出し、彼を包もうとした。
ふと、よく彼を見ると、黒い胴体に少し赤い模様が入っていた。
あれ……。普通のクモって黒いよなぁ。赤いの入ってるって毒のあるやつじゃなかったか?
もしかして、セアカゴケグモか……。
そうだとして咬まれていたら大変なことになる。
セアカゴケグモに咬まれると、咬まれた跡が1,2か所でき、その部分が痛くなる。
そして時間が経つと、全身に痛みがいきわたる。
場合によっては、頭痛、発熱、吐き気が襲うことがある。
高齢者や乳幼児が噛まれたら、死ぬ可能性もあるが、普通の大人は死ぬことはないらしい。
だいたい、1週間以内に回復することがあるらしいのだが、刺されたくはないものだ。
しかし、僕は痛みは感じていなく、全身を見渡しても咬まれた跡はない。
運よく咬まれてはいないようだ。
しかし、毒グモであれば話は別だ。
逃がそうと考えていたが、害のあるものであれば始末しておいた方がよいだろう。
じゃあ、叩き潰すか……。そう思っているとどこからか声がした。
「貴様は、この高貴なわしを殺すというのか。」
「えっ」
これって、クモが言ってるの……?
やはり、咬まれているのか、ついにクモの声が聞こえるようになってしまった。
しかも、貴様だとか自ら高貴と言っているところを見ると、高飛車である。
「さっき、彼も生き物だからここで死なせては可哀想だと思っていたじゃないか。なぜわしを殺す? 貴様を咬んでおらんのに。」
うわ、心の中読まれてるわ……。
それに、自ら咬んでいないと自白している。
でも、僕はこのままだとクモが優勢になってしまう気がしたので反論した。
「あ、あなたは人間にとって有害だから始末します。」
「そうか……。わしは必要以上に咬むことはしないんだがなぁ。危険な目に遭いそうなときにしか咬まない。」
「でも、僕が寝てて足を動かして、あなたを払いのけたら咬むでしょ?」
「いや、安全な場所に避難する。クモだっていろいろ考えているのだよ。」
本当かよ……。その状況でそんな冷静な判断ができるのかよ……。
「貴様の思っていることは、わしに筒抜けだぞ。疑っておるな。
わしはそんな状況を幾度も乗り越えておるんだ。冷静な判断はできる。」
そうだった。心を読めるのだった。僕は、思ったことをそのままいうことにした。
「あなたを信用できません。」
「しかし、貴様はわしとずっと喋り続けている。本当に信用できないなら今頃固いもので叩き潰しておるだろう。」
「そう言って、惑わそうとしてますか?」
「……。」
図星だな。
「図星だな。クモのくせに人を騙そうだなんて。」
「それは……すまなかった。こうでもしないとすぐに潰されるから、時間稼ぎをしなければと思って……。それに、何倍も大きい人間に負けないように虚勢を張っていた。わしを、わ、私をそのまま逃がしてほし……。」
ダン!
僕は、引き出しから出しておいたガムテープで潰した。
「最初からその態度ならもう少し考えたのに。」
ワンルームの窓から光が差し込む。
その光は僕の顔にめがけて、直線となりあててくる。
「うーん」
一瞬、あれ? となったが、夢を今まで見ていたことをぼんやりと察した。
体を起こし、足元をみると黒いかたまりが見えた。
「はっ!」
もしかして、あの夢は予言していたものか……。
正夢になるのか……。
そう思ったが、よくよく見ると……。
「何だぁ~、糸くずのかたまりじゃん。」
休日の朝にしては、刺激の強い朝になったが、そのおかげで目が覚めた。
いつもは一回、体を起こしてもまたすぐに二度寝したくなるが、この日はシャキッとして一日を過ごした。
この作品はフィクションです。 この作品に登場する人物・団体は実際のものとは一切関係ありません。
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