私はやめない・上

創作ストーリー
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入社しました。

「おはようございます。」

私は晴れやかな気持ちで先輩社員に言った。

「今日から営業部に配属になった浅田柚月さんだ。新卒の子だからみんなよろしく頼むな。」

大学を卒業して新卒で入ったこの会社

就活がなかなか上手くいかず、友達が内定をもらえる中で私は全然もらえなくて焦っていたが、

まだ募集中だったこの会社に間に合ってよかった。

ダメならフリーターになるしかなかったが、貧しい家庭で育った私は家族に仕送りできるように安定した正社員になりたかった。

そんな私は今、初出社の朝礼で軽く自己紹介を終えたところだ。

私を拾ってくれたのでこの会社に貢献したい。私はそう思った。

「この資料コピーしてくれる?」

「はい、承知しました。」

私は、先輩から言われた仕事を全て引き受けた。

そのうち、先輩の外回りに同行するようになり色々教えてくれた。

一人立ちしました。

何もかも初めてな私には新鮮でとても楽しく思えた。

外回りの後の処理も一通りできるようになり、私は1ヶ月で一人立ちした。

この会社では研修が短く、すぐ一人立ちして色々覚えさせていくというスタンスらしい。

一通りこなせるようになり、課長からたくさん回れと言われた。

私にたくさん経験させたいのかもしれない。

外回りが多くなると、外回りから戻ってきた後の処理も量が多くなる。

日によっては、夜に一人で残って残業することもあった。

それと、先輩から

「ごめん、私、保育園の迎えがあるからこれやっといてくれないかな?」

と言われることもあった。

それはしょうがないよな……。

でも、おかげで仕事の経験値が増えると思ってポジティブに考えていた。

そんなとき、私はある営業先に行った。

営業先で声をかけられました。

その日は問題なくこなし、帰社しようと営業先の会社を出た。

すると、後ろから

「そこのお嬢さん。ハンカチ落としたよ。」

「え?」

後ろから青い作業服をきたおじさまが私に近づいてきた。おそらく、この営業先の清掃員をしていると思われる。

「あ、ありがとうございます……。」

私はおじさまからハンカチを受け取った。

ただ、ハンカチを普段から落とすようなことは今までなかったのだが……。

受け取るとおじさまが話しかけてきた。

「あなた、取引先の人?」

「はい。そうです。」

「そうなんだ、頑張ってね。」

「ありがとうございます。」

おじさまは話終わるとトイレの方に向かった。トイレ掃除するのだろうか。

清掃員の人が優しいなんていい会社なんだろうなー。

なんて思いながら、私は帰社した。

私の仕事が増えました。

そして、どんどん私の受け持つ仕事は増えていった。

いつしか、4日連続で終電の時間まで会社にいて残業する時もあった。

課長から

「最近、残業多いねぇ。まぁ、頑張ってね。」

と言われた。

優しい……。やはり上司だから部下を気にかけてくれたんだな。

これを励みに仕事をした。

でも、この仕事を捌けなくて困っている。

できれば残業はしたくない。早く帰りたいが仕事が終わらない。

先輩に聞こうとしても忙しそうだったり、先輩同士で談笑していて私が入る隙がないように見えた。

一度、先輩たちが喋っているときに話せる話題だったので割って入ったが、皆ムッとして、

「そうね。」と冷たい一言で過ぎ去っていったことがあったっけ……。

誰にも頼れない、仕事が終わらない。

先輩は定時で上がれているから、私の能力が低いのだろう。

もっと頑張らなきゃ。もっと……。

そんな中、私は課長に呼ばれた。

「浅田さん、ちょっと来て。」

私は、課長のデスクに向かった。そして、課長から

「ここの数字間違ってるよ。これで4回目だよ。」

営業の報告書の数字を打ち間違えてしまった。しかも、これで4回目だった。課長は呆れながら怒った。先輩たちは冷ややかな目でこちらを見ている。

「すみません、すぐに修正します。」

「気をつけてよね、もう独り立ちしてるんだからさ、頼むよ。」

「はい、申し訳ございません。」

ここ最近、寝不足で不注意が多くなった。

そんな中、私は取引先の会社に行く用事があり、仕事を済ませた。

そして、会社を出ようとすると、廊下の角で男の人と鉢合わせした。

「あ、すみません。」

「あ、ごめんなさ……、あれ? ハンカチ落とした子だったかな?」

鉢合わせしたのはあの時の優しい掃除のおじさまだった。

「はい、先日はありがとうございます。ただ、確認したら、私のハンカチじゃなかったんです。」

そう、あの時拾ってくれたハンカチは私のものじゃなかった。

すぐに確認せずに帰ってしまった私も悪かったが、帰社したときに気づいた。

私は取引先の会社に来て、すぐに受付の人にハンカチを渡した。

受付の人は笑顔で「かしこまりました、では、こちらで確認いたしますね。」と言ってくれた。

「あ、そうだった? ごめんね、違う人の渡しちゃったね。」

「いえ、いいんです。」

「ところで、最近、仕事はどうだい?」

「どんどん仕事を任せてもらえるようになって、もっと頑張らなきゃって思います。」

「そうか……。無理しないでね。辞めたらいけないよ?」

「はい。辞めないです。」

「仕事のことじゃないよ?人間でいることを辞めたらいけないからね。」

「は、はあ……。」

私の中で少しひっかかりはあったが、取引先の会社を後にした。

「そろそろかな……。」

後ろでそんな声が聞こえたが、気のせいかもしれない。

続く

この作品はフィクションです。
作中の人物は架空であり、実際の人物・団体とは一切関係ありません。

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