先端を向けるな

創作ストーリー

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夕ごはんを終えて

「ごちそうさま」

食事が終わり、夫がリビングのソファーへ移動した。

そして、テレビをつけてくつろぎ始める。

そして、私は食べ終わった皿を片付ける。

いつものことだ。

普通の女性は食べ終わった食器は自分で片付けろと夫に腹が立ってしまうのかもしれない。

でも、私はそれに腹は立たない。

私は夫と2人暮らし。子どもはいない。そして、仕事を頑張っていて2人で暮らすには十分で、

私は主婦として余裕をもって

過ごすことができている。

専業ではなくスーパーでパートをしているが、それは私の小遣い稼ぎのためであり、仕事が好きなのもあって勤めている。

私が短時間のパートをしているのもあって、家事は私が多めにやっている。

もちろん、男が家族を養えるほどの収入がないのなら一緒に家事や育児をすべきという考えは分かる。

しかし、私たちはお互いの役割を理解して、助け合っている。

なので、私は今の生活に満足している。

ただ、夫に対して不満がひとつある。

夫は食事中、箸やスプーン、フォークを持ちながら人を指すくせがある。

先端を私に向けてくる。

箸に関しては指し箸というマナー違反である。

指された側からすると不快だし、汁物を食べているときにやられると、箸についた汁が飛ぶ可能性があって汚れる。

私は何度も

「ねぇ、箸を人に指すのやめてくれない?」

と言ったんだが、

「あっ、ごめんごめんw」

と言うものの改善されない。

言っても効き目ないし、直らないのかな……。

私は、諦めている。こんなことを考えるのも無駄だし。

運命の食卓

ある金曜日、私は鳥のもも肉を焼いて出した。

その時は、いつもお疲れ様という意味もあって、レストランで食べる気分になってもらおうと思い、

ナイフを用意した。

さすがに、ナイフはしないだろ……。

とは思ってた。

いざ、喋りながら食事をすると、あの人はやってしまった……。

「今日、取引先の人がさ……」

「ヒッ」

声が漏れてしまった。

ナイフを私に向けたのだ。怖すぎる。

夫は「ん?」という顔になったが、

自分の指したナイフを見て

「あ……、でも、距離があるから大丈夫だよ。」

といって、そのまま焼いた鶏肉を食べた。

は? 意味わからん……。距離が遠いからいいという問題じゃないだろ。

指すことに問題があるんだよ。全然、分かってないわこいつ。

あと、一瞬の間でも怖い思いさせてるんだから私に謝れ。

こいつは私を殺そうとしてたのか……。

その日は悶々とした夜を過ごした。

それから、1か月後

夫は食事中、箸で私を指さなくなった。しかも、大人しい……。

あれ? どういう気の変化だろう?

それとも、多重人格か何かで人格が入れ替わった? 博士が乱暴者に変わったかのような。 

それとも、夫の中にいる人は別の人なのか? 夢の中で入れ替わってる!的な。

それとも、何かが夫に入り込んできたのか? 右手だけ乗っ取られた少年のような。

「今日、何だか大人しいね。何か落ち込むようなことあった?」

私は聞いてみた。すると、夫は

「今までごめんなさい。」

といった。

それから、昼にあったことを話した。

この日、夫の部署に新しい社員が入った。

中途で入った佐倉さんという女性だった。夫は彼女の教育係になった。

誠実で仕事のできる夫には適任だったんだろう。

彼女にいろいろ教え、昼休憩も彼女と一緒にとったそう。

会社の近くの食堂でご飯を食べたのだが、そのときに話しながら指し箸をしたそうだ。

佐倉さんは不快だったんだろうなぁと、途中まで聞いていた私は思った。

しかし突然、事態が変わった。

彼女は途中から、夫に指し箸を始めた。ついには、喉仏にギリつきそうなくらいの距離まで箸を近づけた。

「オァッ!」

夫はビックリして変な声を出してしまったらしい。

そして、ふと我に返り

「ちょっと危ないじゃないか!」

って怒ったようで、すると彼女が

「あぁ、でも、ケガしてなかったのでセーフですよ。それと、私が箸で人を指すことについてどう思いましたか?」

「いや、問題はそういうことじゃないよ。それと、女性なんだからはしたない真似はしないほうがいい。」

「その言葉、そのまま先輩にお返ししますけど?」

佐倉さんは大声で話をつづけた。まるで、私の話を聞いてくださいとばかりの声で……。

「女性の私が指し箸をしたらダメで何故、先輩が指し箸をしていいのですか?

マナーに男女関係ないと思います。

私は先輩から箸で指されてとても不愉快でした。

だから、先輩の周りは誰も食事に行きたがらないんですよ。

そのうち、奥様に捨てられますよ。

その前に、指し箸を直さないと駄目ですよ。誰からも相手にされなくなりますよ。」

夫は反論しようとしたが、矢継ぎ早に放たれたマシンガントークを止められなかった。

佐倉さんは財布から千円札を出し、立って夫に言った。

「今回は奢らなくていいです。不快な思いをさせた人から奢られても嬉しくないので、

あと、マナーの本買ったらどうですか? 恥ずかしいですよ?

最近、友達のお姉さんが自分の子どもに躾けるためにこんな本買ったらしいですよ?

自分で買ってみたらどうですか?」

そういって、去っていった。

よく言ったぞ! 佐倉さん。

大声で罵倒されたから、周りにいたサラリーマンはクスクスしていたようで、

夫は恥ずかしくて逃げるようにして食堂を去っていったらしい。

そして、反省したみたいだ。

「へぇー、そうなんだー。」

私は、平坦な何の感情もないような感じで

何となく話を聞いていましたよという感じの

薄い反応をした。

「自分にされて初めて気持ちが分かったとか、バカか、お前は……。」

「へっ!」

夫が私を見て、素っ頓狂な声を出した。

どうしたのかと思ったが、私がさっきの本音を漏らしてしまっていた。

無意識に出してしまうほど、口に出してしまうほど本音が強かった。

バレちゃしょうがないな。

今まで夫の前で、多少は猫を被っていた私だったが、もうする必要はなくなったな。

私は吹っ切れた。

これで、私たちは戻ることもできず、新しい関係へと踏み込んでいくだろう。

さぁ、覚悟しな。まずは勧めてくれた本を買って教育してやりますか。

この作品はフィクションです。
作中の人物は架空であり、実際の人物・団体とは一切関係ありません。

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