イカから賭けよう

創作ストーリー

「じゃ、最初は餌を賭けへんか? 俺の持ってるイカから賭けへんか?」

「お、おう……。」

 あいつの思い付きでイカを賭けることにした。

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イカから賭けよう

俺とあいつは釣りをしていた

 もうすぐ、冬に近づくころだ。

 俺は、冷たい潮風が顔にあたることでそう痛感する。潮の香りが漂うこの堤防で俺とあいつは釣りをしていた。

 「ふぅ~、寒い……。」

 俺は、息とともに吐き捨てるように言った。

 でも、俺は嫁がワークマンで買ってくれたダウンジャケットを着ていた。

 防寒性抜群で体の中はちっとも寒くない。やっぱり

ワークマンがいい!

って嫁が言うだけあるなぁ……。

 んまぁ、それはともかく

 枯れ果てたおっさんになってもこうやって会ってるなんてな……。俺はしみじみ思う。

 あいつとは中学で友達になった。大阪からやってきたあいつはこっちに転校してきてやけに元気な奴だなっていう印象だった。席に隣になって、自然と喋るようになりだんだん仲良くなっていた。大人になっても家に来たりしてたっけなぁ。

 おじさんになって俺は会社の先輩の影響もあって釣りを始めたが、まさか、あいつも釣りをやっていたとは。

 そう思って、俺から釣りに誘った。そしたら、月に1回のペースで行くようになった。

 そして、釣りをしながらあいつと喋ってるのが心地よい。

「最近さ、仕事で履く革靴を買ったんだけどよ、思い切ってブランドもんを買ったのよ。そしたら、履き心地悪くて、靴擦れしてな。最悪だったわ。」

「ホンマか。あれやな、有印不良品やな。」

「有印不良品?」

「無印良品あるやろ? あれは、ぱっと見地味やん、でも、使えるもんやろ。その逆や。

ブランドもんなのに使えへんのやろ。有印不良品やないかい。」

「何だよ、それ。」

 あいつは笑かそうとしてるのか変なことを言った。

 釣りを始めてから1時間経っているが、一向にどちらも釣れていない。

 釣りはそう簡単に上手く行かないものだと俺は思っている。

 釣り針につける餌であったり、釣り竿の引きにいかに敏感であるかで釣れるかが変わってくる。

 人生と同じである。

 人生だって、餌が自分の行っている行動だとして、

どんな行動をしているかでどんな魚、すなわち、どんな結果になるかも変わるし、

日々の生活の中で敏感に感じ取れるかでその時のチャンスを逃さずに

チャンスを掴めるかどうかが変わってくる。

そして、どんなマニュアルがあったとしても最初は上手く行かないことの方が多いということだ。

 かれこれ1時間以上釣りをしていると、飽きてくるのかあいつが俺に言ってきた。

「なぁ、今から賭けへんか?」

最初の賭け:イカ

「賭ける? 何を?」

「いや、何も決めてへんけど。何かつまらんから楽しいことしようと思ってな。」

「何も考えてないのかよ。」

 あいつはよく何も考えず喋ることがある。まぁ、そんな能天気なとこがあいつの良いところでもある。

「じゃ、最初は餌を賭けへんか? 俺の持ってるイカから賭けへんか?

「お、おう。じゃ、イカから賭けようか。」

 俺は渋々承諾した。

「じゃ、俺が今何したいか思うとることを当てたら俺のイカあげたるわ。

「おう、そんならさ、何か書いとかんとお前のさじ加減になるから、丁度いいものがあるわ。」

 俺は、ポケットから手帳を出した。

「お前、手帳持ってんのか。真面目やな。俺なんか持ったことないわ。だから、約束忘れるんやな。」

「お前も持っといた方がいいぞ。」

 俺は、手帳とその中に入れていたボールペンを出し、あいつに渡した。

「ここに書いてくれよ。」

「おう、何か変なこと書いたるわ。」

「やめろ。」

 あいつは俺に見えないように何かを書いた。

「書いたぞ、俺は今何をしたいでしょうか?」

 クイズ番組の問題の言い方で俺に言った。

「そうだな……。まぁ、お前はよくパチンコしたいって言ってるからな。どうせ、パチンコだろ?」

「さあ、どうやろか~。」

 そういうと、あいつは俺に手帳の中身を見せて、答えを見せた。

「パチンコでしたー。」

「合ってんじゃん。もったいぶりやがって。」

「それがクイズのいいところやないの~。」

 何だよ、それ。

「じゃあ、当てたからお前に俺のイカをあげるわ。」

「おう、ありがとな。」

2度目の賭け:あいつのルアー

 俺は、あいつから釣り餌のイカをもらった。1パック持ってきたのをもらった。

「今度、お前が問題出すか?」

「俺はいいよ。」

「じゃ、また俺が問題だすわ。」

 いや、俺はいいよって言った後に、何回かラリーを期待していたのだが、すぐにあいつは問題を出し始めた。

「じゃ、今度は俺の好きな食べ物当ててみ。

「は? 知らねぇ、興味ねぇな。」

 俺は少し笑みを浮かべあいつに言った。

「そんなん、お前の好きな食べ物も興味ないわ。どの女を狙ってるかは興味あるけどな。」

「いや、俺結婚してんだから、ないわ。」

「んなアホな、男はみんなスケベやで。」

 それは分からなくもない……。

あいつはまた俺の手帳に答えを書き、俺は答えを考える。

当てたら、俺のお気に入りのルアーをやるわ。

 これは当てるしかないだろう。そう思い、俺は考えた。

「うーん、やっぱり今釣りをしてるってのもあるから寿司か?」

「違うな。」

「じゃあ、逆に肉でステーキとかか?」

「おぉ、近くなったかもしれへん。」

「そうか。うーん、ヒント欲しいわ。」

「ええで。俺ってパチンコ好きやろ、あと、パチンコと……。」

「え、酒か? ビール? 焼酎?」

「確かに酒は好きやけど、酒じゃないねん。酒の……。あの、あれよ。」

「つまみか? 枝豆、唐揚げ、するめいか……。とかか?」

「違うねん。もう締め切らしてもらうで。」

 ここでクイズが終わる。

「えー、何だよ答え。」

「正解は、塩ラーメンでした。」

 あいつは、手帳にちゃんと『塩ラーメン』と書かれた中身を見せた。

「何だよ。つまみかと思ったら、酒のしめかよ。」

「俺、つまみなんて一度も言うてへんで、お前が勝手に思っただけやろ?」

「あと、ステーキがおしいって言ってなかったか?」

「ああ、惜しいで。伸ばし棒が入っとるからな。」

「そこかよ。」

 俺はあいつの答えに少し落胆した。なんだかんだでだんだん楽しくなってきた俺がいる。

というか、あいつ元々、ルアーをあげる気ないだろ。まぁ、どうでもいいが。

そして、今度また、あいつが俺に言ってきた。

3度目の賭け:飯の奢り

「じゃあ、今度は、さっきのルアーでお前が10分以内に何か釣れたら、今度飯奢るで。

「ほんとか? やるわ。絶対、お前に奢らせるわ。」

 俺はまた張り切る。そして、あいつのルアーをもらい、釣り糸を下げた。が、まったく来ない。残り時間があと1分を切った。

「さすがに、釣れへんか。」

「いや、まだ分からんぞ。」

 意外と残り時間が少なくなってかかるってこともあるからな。そう思っていると、俺は釣り竿に引きを感じた。

「おっ、何か引っかかったぞ。結構強いわ。」

「おぉ、ホンマか。俺も手伝うで。」

グイグイ引いていき、竿がしなっていた。あいつも俺の持っている竿を一緒に持って引っ張る。俺はリールを巻こうとする。

「これは大物かもしれへんな。」

「ああ、そうだな。」

 確実に何かが上がってきている感覚がする。

 しばらく格闘していると、あいつが海の方を見て、何かが上がっていると思い、網の準備をした。そして、俺が一生懸命リールを巻くと、あいつは網を海の方にやり、何かをすくった。

 あいつはニコニコして俺に言った。

「やばいぞ、でかいのが釣れたで!

マジか!

 あいつの獲った魚を見てみると、デカくて豪快にはねている魚がいた。魚の特徴から見てブリに見える。こんな堤防で釣れるとか奇跡だ。

「これ、ブリじゃないか。」

「せやな。ようこんなとこで釣れたな。」

 あいつもこの奇跡に驚いているようだ。

「お前のルアーのお陰で釣れたわ。」

「いや、釣ったのはお前やで、お前のお手柄や。まぁ、これで俺はお前に飯奢らないといっけへんな。」

「だな、忘れるなよ。」

「分かっとるわ。で、そのブリ、どうしよか?」

「お前、持って帰れば? ルアーのお陰で釣れたんだしよ。」

「いや、釣ったのはお前だから持って帰り。」

 お互い、ブリを遠慮しあう。

「じゃあさ、俺んちでさばくから切り身を分けるわ。」

「いいんか? じゃあ、そうしてもらおうかな。」

 潮風のひんやりとした風とは対照的に俺たちの友情は熱くなっていった。

今日もあいつが笑っている

「そんなこともあったよな。」

 あれから数か月後、黒い縁取りあいつのニコニコと笑っている写真が入り、その下に静かに眠っていた。その場所は静寂と厳かな雰囲気が取り仕切っている。

 心臓に持病があると最近聞いたが、こんなすぐだとは。やはり、心臓病は急におこるものだ。

 俺はあいつの親族に挨拶をし、あのときの釣りのことを懐かしんだ。きっと、あいつも思い出しているだろう。また、天国で会って、釣りでもしたい。

 そう、俺は思った。

この作品はフィクションです。
こちらに登場する人物・団体・場所は全て架空であり(無印良品以外)
実在の人物・団体・場所・無印良品とは一切関係ありません。

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